神社には、それぞれの由緒を象徴する「社紋」があります。
家紋と同じく、長い歴史の中で受け継がれてきた大切な印です。
最近、Googleマップで偶然見つけた神社に「右三つ巴紋」が使われており、その向きに興味を持ったことから、巴紋について調べ始めました。
今回は「右三つ巴紋」と「左三つ巴紋」という“向きの違い”を手がかりに、そこから見えてきた小さな謎と考察をご紹介します。
「巴紋」の向き、意識していましたか?

巴紋といえば、ぐるりと回転する勾玉のような形が特徴的ですが、実はこの“向き”に種類があります。
- 尻尾が時計回り(右側)に伸びているのが「右三つ巴紋」。
- 逆に、尻尾が反時計回り(左側)なら「左三つ巴紋」です。
形の由来については、勾玉・雷・蛇・雲・人魂・太陽・月など諸説あり、定説はありません。
八幡神社の総本宮である 宇佐神宮の社紋は「左三つ巴」。
このため八幡系の神社には左三つ巴が多く、私も「巴紋=左向き」だと思い込んでいたほどです。
右三つ巴紋」との出会い:国東半島・伊美崎社のケース
右三つ巴紋の存在を意識したきっかけは、
国東半島の北部、海沿いにある 伊美崎社 をGoogleマップで見ていたときでした。
お賽銭箱に薄く残った紋が、明らかに「右三つ巴」。
社殿の朱色から、宇佐神宮ゆかりの八幡系かと思いましたが──

調べてみると御祭神は、まったく別系統でした。
祭神:伊弉諾尊・伊弉冉尊・菊理姫尊
(村の鎮守のドットコムより)
宇佐神宮の
八幡大神(応神天皇)
比売大神
神功皇后
とは異なる神々です。
特に気になったのは 菊理姫(ククリヒメ)。
白山信仰の中心・石川県「白山比咩神社」の主祭神として知られ、『日本書紀』の「一書(あるふみ)」にのみ登場する非常に特異な女神です。
黄泉の国でイザナギとイザナミを仲裁した場面から、縁結び・和合・調停・生と死をつなぐ神として語られることもあります。
伊美崎社の地に白山系の神が祀られている──ここから、いくつかの仮説が頭をよぎりました。
「伊美」という地名の意味を追う
伊美崎社がある「伊美(いみ)」という地名は、非常に古い由来を持ちます。
「日々の”楽しい”をみつけるブログ」のライターの方が書かれていた『国東半島 北浦部の地名を歩く(廣末九州男)』によると、神を祀る特別な場所=「忌み地(いみち)」「斎地」 が語源とされます。
“心身を清め、けがれを避けて慎むこと”
“神への祭事を司る場所”
こうした意味合いから「いみ」という語が生まれ、
祭祀の場を示す地名として残ったものです。
国東半島は、仁聞菩薩が六郷満山を開いた地であり、古代の交通要衝でもある場所。
伊美という名が「特別な祭祀空間」を示すのは、自然なことのように感じられます。
その伊美の岬に、イザナギ・イザナミ・菊理姫 を祀る伊美崎社が建つ。
そして社紋は、白山系の紋ではなく「三つ巴」。
しかも宇佐系とは逆の「右三つ巴」。
右三つ巴紋はなぜ選ばれたのか?
八幡系の神社では左三つ巴が多いものの、実際には神社ごとに向きの使い分けはまちまちで、必ずしも統一された意味があるとは限りません。
ただ、
伊美という祭祀性の高い場所
白山系の御祭神
右三つ巴という宇佐神宮と“逆向き”の選択
この組み合わせは、興味深い対照を見せています。
なぜ右なのか。
配流の歴史?
地名の由来?
信仰の重層化?
これらが複雑に絡み、ひとつの仮説にたどり着くまで、思いのほか時間がかかりました。
右三つ巴紋を持つ神社リスト
- 大分県豊後高田市香々地 別宮八幡社 > 楼門に右三つ巴紋
- 大分県国東市伊美町(国東半島) 伊美崎社 > GoogleMapに掲載されたお賽銭箱に刻まれた右三つ巴紋
- 大分県宇佐市安心院町龍王 海神社 > 右三つ巴紋が掲載された記事
- 大分県宇佐市南宇佐 宇佐八幡宮大楽寺 > 護摩堂の屋根に右三つ巴紋
- 大分県宇佐市下庄布津部 貴船神社 > 神楽奉納時の帳に右三つ巴紋
- 福岡県豊前市黒土 石清水八幡神社 > 石碑に右三つ巴紋(この記事に画像あり)
- 福岡県宗像市鐘崎 織幡神社 > 右三つ巴紋が掲載された記事
- 福岡県宗像市光岡 光岡八幡宮 > 右三つ巴紋が掲載された記事(御朱印)
- 福岡県糟屋郡宇美町 宇美八幡宮 > 右三つ巴紋が掲載された記事
- 福岡県福岡市中央区今川 鳥飼八幡宮 > 公式HPの社紋が右三つ巴紋
- 福岡市博多区博多駅前1丁目 若八幡宮 > 左三つ巴に対して右向きの矢印の情報
- 福岡県福岡市博多区那珂 那珂八幡宮 > GoogleMapeに掲載された二本の石柱に刻まれた右三つ巴紋
- 福岡県福岡市博多区板付 板付八幡神社 > GoogleMapに掲載された二本の石柱に刻まれた右三つ巴紋
- 福岡県福岡市東区三苫 綿津見神社 > 右三つ巴紋が掲載された記事
- 福岡県福岡市東区多々良26 若八幡宮 > GoogleMapに掲載された狛犬の土台に右三つ巴紋
- 福岡県福岡市南区野間 野間八幡宮 > GoogleMapに掲載された二本の石柱に刻まれた右三つ巴紋
- 福岡県福岡市南区 三宅若八幡宮 > GoogoleMapに掲載された二本の石柱に刻まれた右三つ巴紋(?薄い)
- 福岡県福岡市西区橋本 橋本八幡宮(紅葉八幡宮元宮)> GoogleMapに掲載された二本の石柱に刻まれた右三つ巴紋
- 福岡県糸島市二丈福井4909 福井白山神社 > GoogleMapに掲載された二本の石柱に刻まれた右三つ巴紋
- 福岡県糸島市大山福井2564 大入白山神社 > GoogleMapに掲載された二本の石柱に刻まれた右三つ巴紋
- 福岡県朝倉市小田 入龍神社(海神社)> GoogleMapに掲載された幕に右三つ巴紋
- 福岡県朝倉市菩提寺 金刀比羅神社 > 右三つ巴紋があると掲載されている記事(社殿)
- 福岡県北九州市小倉南区葛原4丁目3−1 葛原八幡神社 > GoogleMapに掲載された屋根の右三つ巴紋
- 福岡県北九州市八幡東区春の町4丁目4−1 豊山八幡神社 > 公式HPに右三つ巴紋を掲載
- 福岡県北九州市八幡西区東鳴水5丁目3−1 貴船神社 > GoogleMapに掲載された神社の幕に右三つ巴紋
- 福岡県北九州市戸畑区浅生2丁目2−2 飛幡八幡宮 > GoogleMapに掲載された旗に右三つ巴紋
- 福岡県久留米市御井町 高良大社 > 八幡大神が右三つ巴紋であると掲載されている記事
- 佐賀県伊万里市大川町大川野 淀姫神社(河上社) > 右三つ巴紋があると掲載されている記事(本殿の幕)
- 山口県下関市長府宮の内町 忌宮神社(豊浦宮) > 右三つ巴紋があると掲載されている記事(屋根)
- 愛媛県西条市氷見 石岡神社 > 公式HPで右三つ巴紋を掲載
- 埼玉県熊谷市東別府 東別府神社 > 右三つ巴紋があると掲載されている記事(賽銭箱)
- 栃木県真岡市東郷 大前神社 > 公式HPで右三つ巴紋の写真が掲載
- 群馬県吾妻郡中之条町下沢渡 諏訪神社 > 右三つ巴紋があると掲載されいてる記事(屋根)
- 群馬県前橋市元総社町 上野國総鎮守 総社神社 > 右三つ巴紋があると掲載されている記事(玉垣・水鉢・御朱印)
- 宮城県仙台市青葉区八幡 大崎八幡宮 > GoogleMapに掲載された神輿に右三つ巴紋
- 福島県二本松市本町 二本松神社 > 公式HPに右三つ巴紋 幕の左側は✕印、気になる
- 福島県二本松市上原53 鹽澤神社 > 右三つ巴紋があると掲載されている記事
- 福島県耶麻郡猪苗代町西舘 西舘八幡神社 > 右三つ巴紋があると掲載されている記事(幕)
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