乙姫は宇佐の女王だった？ 古代に「隠された」姫神たちの系譜と竜王の浜を辿る

宇佐神宮の境外摂社である乙咩神社（おとひめじんじゃ）を訪れ、かつての旧称「乙比咩社（おとひめしゃ）」の響き、そして主要な御祭神である比売大神（ひめおおかみ）の持つ謎に注目します。

この旧称と、中津に残る龍神信仰の痕跡から、古代宇佐地域の「姫神信仰」と「龍神信仰」の深い繋がりを考察します。

乙姫と豊玉姫信仰の繋がり

乙咩神社の古い呼び名である「乙比咩社」という響きは、日本の昔話に登場する「乙姫様」を連想させます。この連想が結びつく神として、記紀神話に登場するのが豊玉姫命（とよたまひめのみこと）です。

豊玉姫は海神（わだつみ）の娘であり、山幸彦の妻、初代天皇の祖母にあたる重要な神です。彼女は「水」「海」「龍」「出産」といった要素と深く結びついており、

コトバンクの解説にもある通り、彼女は出産時に本来の姿である大鰐（おおわに：巨大なサメ？シャチ？、または龍）の姿を現したとされ、龍神信仰との繋がりがあるように思います。

豊玉姫を祀る神社は全国各地に存在し、佐賀県の豊玉姫神社では大なまずが豊玉姫のお使いとされるなど、地域ごとの多様な信仰の形が見られます。

宇佐神宮「比売大神」の謎と改名仰

宇佐神宮は、八幡大神（応神天皇）と並んで比売大神（ひめおおかみ）を重要な神として祀っています。公的には宗像三女神とされる比売大神ですが、その正体については古くから諸説あります。

「比売（ひめ）」という名前、そして古代宇佐の地が海に近く、海人族（あまぞく）が勢力を持っていた歴史を考えると、比売大神が古代宇佐の地を治めていた土着の女王、あるいは海や水に関わる神とされていた可能性が考えられます。

乙咩神社の御由来書にある通り、かつての「乙比咩社」が明治四年（1871年）に「乙咩神社」と改名された事実は、神仏分離令と重なる時期です。

豊玉姫は記紀神話に登場する神ですが、宇佐の地における特定の「乙姫（豊玉姫）信仰」、特に土着の水や海の女王としての性格や、龍神との結びつきが強い信仰の形が、政府の方針と合わず、曖昧にされたり、隠されたりした可能性が考えられないでしょうか。

闇無浜神社に見る「姫神」と「龍」の繋がり

中津市の闇無浜神社（くらなしはまじんじゃ）の存在は、この考察をさらに裏付ける要素を持っているように見えます。

この神社は中津川の河口右岸に位置し、近世には「竜王社」とも呼ばれていました。
そして、御祭神の一柱には、瀬織津姫の名が明記されています。

さらに、『豊前志』では闇無浜神社の祭神として豊玉彦・豊玉姫・安曇礒良が考察されているという事実は、以下の点を示しています。

豊玉姫の認識: この史料の考察は、「乙姫」＝「豊玉姫」という繋がりが、この地域で古くから認識されていた可能性が考えられます。

瀬織津姫の存在: 闇無浜神社に瀬織津姫が祀られていることは、彼女が地域において確実に信仰されてきた証拠であり、豊玉姫や比売大神と同一、あるいは同系統の海や水の姫神として、並び称されていた可能性が考えられます。

「龍王」との直結: 「竜王社」「竜王浜」「竜王町」といった名称は、この地が強力な龍神信仰の拠点であったことを結びつけているように見えます。

豊玉姫や瀬織津姫が龍神と結びつけられることを考えると、これらの姫神が龍王そのもの、あるいは龍王に近い存在として信仰されていた可能性が浮かび上がってきます。
乙咩神社で見え隠れしていた「姫神」と「龍」の繋がりが、闇無浜神社ではより明確な形で示されていると考察されます。

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