七夕の夜、天の川を挟んで織姫と向かい合う彦星。
織姫は「姫」、彦星は「彦」。
何気なく使っている二つの言葉ですが、「ひこ」と「ひめ」は、もともと対になる言葉でした。
では、「彦」とは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか。
「ひこ」は「ひめ」に対する男性の呼び名
「彦(ひこ)」は、古代の日本語で男性を表す美称です。
辞書では「男子の美称」と説明され、「姫(ひめ)」に対する言葉とされています。
現在では「彦」という漢字を、男性の名前の最後に付ける形で見かけることが多いですが、古代には名前の前にも後ろにも使われていました。
たとえば、海幸彦、山幸彦、天稚彦など、神話に登場する神々の名前にも「彦」が付いています。
一方、「姫」も、女性の名前に付く美称です。
豊玉姫、玉依姫、木花之佐久夜毘売など、神話に登場する女神たちの名前にも見られます。
「彦」と「姫」は、単に男性と女性を区別するだけでなく、古代の人名や神名に使われた、対になる呼び方だったのです。
「彦」は太陽の子なのか
「彦」の語源については、「日子」と書き、日(ひ)と子(こ)から成るという説明があります。
「ひ」を太陽や神聖なもの、「こ」を子や子孫と捉える考え方です。
ただし、語源については諸説あり、これを確定した説明とすることはできません。
「彦」が古代の男性の美称として使われていたことと、「日子」という語源説は、分けて考えておきたいところです。
中国の「牽牛」が、日本では「彦星」になった
七夕の星の物語は、中国から伝わったものです。
中国では、天の川を挟む二つの星を「牽牛」と「織女」と呼びました。
牽牛は牛を牽く者、織女は機を織る者です。
この物語が日本に伝わると、日本では「彦星」と「織姫」という呼び方が使われるようになります。
『万葉集』には、七夕を詠んだ歌が数多く収められています。
その中では、牽牛の星に「牽牛」と書いて「ひこぼし」と読ませたものや、「孫星」と書いたものも見られます。
一方、織女は「たなばたつめ」と呼ばれていました。
つまり、奈良時代にはすでに、牽牛の星を「ひこぼし」と呼ぶ言い方が日本に根付いていたことが分かります。
彦星と織姫
中国の牽牛と織女。日本の彦星と、たなばたつめ(のちの織姫)。
七夕の物語そのものは中国から伝わったものですが、それを受け入れるとき、日本にあった言葉や感覚で表現し直されていったのでしょう。
「ひこ」という古い言葉が星の名に残っていること自体が、その過程の一端を示しています。
参考
- コトバンク「彦」 — 「ひこ」の意味、「ひめ」との対照、語源説
- 國學院大學デジタル・ミュージアム「ひこぼし」 — 『万葉集』における彦星の表記や用例
- 奈良文化財研究所 飛鳥資料館「七夕のはなし」 — 七夕伝説の伝来と『万葉集』の歌
- 国立天文台「七夕について教えて」 — 中国の牽牛・織女伝説と日本での呼び名
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