神社やお寺で、布を使った祭具を見かけることがあります。
神社の本殿前に立てられた五色の幡。祭礼の行列で掲げられる大きな旗。神前に供えられる布や、紙垂を付けた御幣。
どれも布や紙を使ったものですが、それぞれ役割は異なります。
今回は「幡(はた)」と「幣帛(へいはく)」について調べてみました。
幣帛とは、神様に奉るもの
幣帛は、神様に奉る供え物を指す言葉です。
現在の神社では、神饌(しんせん)とは別のお供えとして説明されることが多く、布や紙垂、幣帛料などがこれにあたります。
神饌は、神様に奉る食べ物やお酒のことです。
一方、幣帛は古くから布と深い関係がありました。「幣」と「帛」という文字にも、神前に供えるものや布に関わる意味があります。
國學院大學の神道博物館によると、幣帛は広い意味では神様に奉るもの全般を指し、狭い意味では神饌を除いた供え物を指します。その主なものが布帛(ふはく)、つまり布や絹などです。
伊勢神宮の祭典で奉られる幣帛には、五色の絁(あしぎぬ)や白絹、錦、木綿、麻などが含まれています。
布は、神様に奉る大切な品の一つだったのです。
幡とは何か
では、幡は何でしょうか。
幡は、布などを使って作られた旗やのぼりの一種です。
現在の神社では、本殿の前に五色の幡が立てられていることがあります。
京都府神社庁の解説によると、神社の本殿前に掲げられる五色の幡は、陰陽五行の思想に基づくものとされています。
同庁が紹介している色は、青・赤・黄・白・紫です。
また、伊勢神宮の『皇太神宮儀式帳』や『延喜式』にも、祭りで用いる幡についての記載があると説明されています。
幡は、単に場所を示す目印というだけではなく、祭祀の場を整えるものでもあったようです。
お寺でも使われてきた幡
幡は神社だけでなく、仏教の儀式でも使われてきました。
仏教でいう幡は、仏や菩薩の威徳を示し、寺院の堂内や境内を飾る荘厳具(しょうごんぐ)の一つです。
国立文化財機構の「e国宝」では、東京国立博物館所蔵の国宝「金銅灌頂幡」が紹介されています。
これは飛鳥時代、7世紀の作品です。
金銅板を組み合わせて作られたもので、天蓋から吊り下げられた大きな幡には、如来や菩薩、天人などが表現されています。
幡というと布の旗を思い浮かべますが、布だけでなく、金属などを使ったものも作られていました。
また、仏教では五色幡も用いられてきました。色の組み合わせや意味は、神社で掲げられる五色の幡と必ずしも同じではありません。
同じ「五色の幡」という言葉でも、使われる場や儀式によって違いがあるのです。
八幡の「幡」にも、いくつかの伝承がある
幡という文字が付く神社として、まず思い浮かぶのが八幡神社です。
八幡の名前の由来については、いくつかの伝承があります。
大分県立図書館が回答したレファレンス事例では、応神天皇の誕生に際して、八つの幡が天から降りて産屋を覆ったという伝承や、赤い幡が八流れ、空になびいたという伝承などが紹介されています。
また、「八」は数の八だけでなく、多いことを表すという説明もあります。
ただし、八幡という名前の由来は一つに定まっているわけではありません。
同じレファレンス事例では、ほかにも異なる説が紹介されています。
幡が神の依り代として考えられたという説明もありますが、八幡の名前の由来を一つの伝承だけで説明することはできないようです。
布を奉ることと、幡を掲げること
ここまで調べてみると、幣帛と幡には、どちらも布が使われてきたという共通点があります。
幣帛は神様に奉る供え物。幡は祭祀の場などに掲げられる旗や飾りです。
どちらも布を使っていますが、役割は異なります。
神様に布を奉る習慣と、祭りの場に幡を掲げる習慣。
この二つは、古くからの祭祀の中でどのように使われてきたのでしょうか。
幣帛として奉られた布が、幡へと変化したのか。それとも、もともと別の役割を持つものとして、それぞれ使われてきたのでしょうか。
今回確認できた資料だけでは、その関係までは分かりません。
ただ、神社の本殿前に掲げられた幡や、祭礼の行列で使われる幡を見たとき、その形や色、掲げられる場所にも目を向けてみると、また違った発見があるかもしれません。
参考
- 國學院大學 佐川記念館 神道博物館「神饌・幣帛・祝詞・玉串・直会」 — 神饌と幣帛の違い、伊勢神宮の幣帛の例。
- 神社本庁「祝詞」 — 現在の神社における神饌・幣帛の説明。
- 京都府神社庁「本殿の前の五色の幡にはどんな意味があるのですか?」 — 神社の五色の幡と陰陽五行。
- e国宝「金銅灌頂幡」 — 飛鳥時代の幡の実物。
- 国立国会図書館レファレンス協同データベース「八幡神社の『八幡』の由来は何か」 — 八幡の名称に関する複数の伝承。


