大分県中津市大貞に鎮座する薦神社。
大貞八幡宮とも呼ばれ、宇佐神宮との関わりが深い神社です。
訪れて気になったのが、社紋として用いられている一つ巴紋でした。
これまで神社を巡るなかで、右三つ巴や左三つ巴、二つ巴など、さまざまな巴紋を見てきました。
薦神社の巴紋は一つ。そして、その向きは左向きです。
三角池を御神体とする神社
薦神社には、社殿の背後に三角池(御澄池)があります。

この池は、薦神社の御神体とされ、池を内宮、社殿を外宮と呼んでいます。
神社の建物だけでなく、池そのものが信仰の対象になっているのです。
池には真薦(まこも)が自生しています。
この真薦は、宇佐神宮の行幸会で用いられる薦枕の材料となってきました。
行幸会では、三角池の真薦を刈り取り、新しい薦枕を作ります。そして、それを八幡大神の御験として神輿に納め、各地の神社を巡幸しました。
大分県の資料によると、この真薦を宇佐神宮に納める儀礼は、9世紀半ばには行われていたとされています。
薦神社と宇佐神宮は、こうした祭祀を通じて深く結びついていました。
薦神社が宇佐神宮の祖宮ともいわれる背景には、このような関係があります。
一つ巴紋の向き
もうひとつ気になっているのが、薦神社の社紋です。

宇佐神宮には左三つ巴紋が見られますが、薦神社は左向きの一つ巴紋。
巴の数は違っていても、向きには共通点があります。
これまで各地の神社で巴紋を見てきたなかで、私は左向きの巴紋と女神との関係があるのではないかと考えるようになりました。

右と左。陰と陽。
神社に残る紋や装飾を見比べていると、左右の向きにも何らかの意味があったのではないかと思うことがあります。
もちろん、左向きの巴紋が女神を表すと確認されたわけではありません。
ただ、薦神社の一つ巴紋も、これまで集めてきた記録のなかに加えておきたいと思いました。
八面山の箭山神社上宮
薦神社とのつながりで、もうひとつ気になる場所があります。
中津市の八面山に鎮座する箭山神社上宮です。
この上宮は、薦神社の奥宮ともいわれています。
箭山神社の御神体は、社殿の横にある鷹石と、山の南西に位置する大池です。
八面山の山頂にあり、御神体は社殿左横にある鷹石と社殿の南西1キロメートルにある大池です。「八面山縁起」などの古記録によると、「大宝元年(701年)に宇佐市出身の法蓮によって開かれた」とあり、参道左側には、法蓮による開山を記念して鎌倉時代に建立された角塔婆が現存しています。この角塔婆は徳治3年(1308年)のもので、県指定有形文化財となっています。
中津市ホームページから引用
山上の神社に巨石と池が関わっていることも興味深いところです。
薦神社の三角池と、八面山の大池。
水を御神体とする神社と、山上にある神社。
それぞれの場所を訪ねてみると、神社と水、そして山との関係が見えてくるかもしれません。
水の場に残る信仰
薦神社の三角池は、宇佐神宮の祭祀にも関わってきた大切な場所です。
池を御神体とし、そこに自生する真薦を神事に用いる。
水の場そのものが信仰の中心にあったことが分かります。
私はこれまで、池や水辺の近くに水の女神が祀られている神社にも出会ってきました。
そうした場所を見てきたこともあり、薦神社の三角池と一つ巴紋が気になっています。
左向きの巴紋は、女神と関係しているのだろうか。
三角池に残る古い祭祀と、薦神社の社紋には、何かつながりがあるのだろうか。
今のところ、答えはありません。
ただ、池と社殿、山上の神社、そしてそこに残る紋。
それぞれを見ていくと、ひとつの神社だけでは分からないことが、少しずつ見えてくるように思います。
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