瀬織津姫を祀る神社について調べているとき、熊本県に「天神樟」と呼ばれるクスノキが複数残されていることを知りました。

宇土半島周辺にある、郡浦の天神樟、栗崎の天神樟、打越の天神樟。
いずれも大きなクスノキですが、調べてみると、それぞれに地域の信仰との関わりが残されていました。
郡浦の天神樟
熊本県宇城市三角町中村にある「郡浦(こうのうら)の天神樟」。
宇城市の案内によると、樹齢は1,000年を超えるとされ、樹高は約23メートル、根周りは約30メートル。幹の内部には、6畳ほどの空洞があります。
このクスノキは、上本庄地区の氏神として御神木に祀られ、地域の守り神となってきました。
現在も学問の神様として信仰されており、毎年11月25日には郡浦神社の神主を招いて例祭が行われています。
長い年月の間に火事や風雨などの災害を受け、幹には治療の跡や破損も残っています。それでも、現在まで樹勢を保っています。
千年以上の時を経たとされる一本のクスノキが、今も地域の信仰の場であり続けているのです。
栗崎の天神樟
宇土市栗崎町にある「栗崎の天神樟」。
こちらも、樹齢400年以上とされる大きなクスノキです。
熊本県総合博物館ネットワークの資料によると、幹は高さ約3メートルのところから三本に分かれ、枝張りは約30メートル。境内をほぼ覆うほどの大きさです。
この木は、栗崎地区の人々の氏神である菅原神社の御神木として信仰されてきました。
興味深いのは、ここには一般的な神社のような社殿がないということです。
熊本県森林組合連合会の資料には、「このクスノキ自体が氏神であり、神社である」と記されています。
戦前までは、毎年12月5日に「栗崎の火焚き祭り」が行われていました。
木の前に薪を積み上げ、大枝に炎が届くほど火を焚いていたといいます。
現在の感覚では、巨木のそばで火を焚くことに驚きますが、それほどまでに、この木が地域の祭りの中心にあったことがうかがえます。
栗崎の天神樟は、昭和44年(1969年)に熊本県の天然記念物に指定されています。
打越の天神樟
宇土市栗崎町には、もう一つ「打越の天神樟」と呼ばれるクスノキがあります。
栗崎の天神樟からも近い場所にあり、こちらも宇土半島に残る大きなクスノキの一つです。
熊本県総合博物館ネットワークの資料でも、郡浦の天神樟や栗崎の天神樟とともに、宇土半島にある大クスノキとして名前が挙げられています。
ただし、今回確認できた資料では、打越の天神樟について、樹齢や幹周などの詳しい数値、祭りの内容までは確認できませんでした。
栗崎の天神樟と近い場所にあることは分かりますが、両者の信仰がどのような関係にあったのかは、現時点では分かりません。
木そのものを祀るということ
今回調べた三か所のうち、特に印象に残ったのは栗崎の天神樟でした。
神社の境内に大きな御神木があることは珍しくありません。
けれども、社殿を持たず、木そのものが氏神であり神社であると語られている場所となると、少し見え方が変わります。
郡浦の天神樟も、上本庄地区の氏神として祀られ、現在まで例祭が続いています。
宇土半島には、このほかにも馬門の歳の神の樟など、地域で大切にされてきた大クスノキがあるそうです。
なぜ、この地域にはこれほど多くの大クスノキが残り、信仰の対象となってきたのでしょうか。
「天神」という名前からは、菅原道真を祀る天神信仰も思い浮かびます。一方で、木そのものを氏神として祀る姿には、自然の大きな存在を信仰の中心に置いてきた地域のあり方も感じられます。
ただし、現在残る天神信仰と、巨木を祀る信仰が、いつ、どのように結びついたのかまでは分かりません。
瀬織津姫の神社を調べている途中で出会った、宇土半島の天神樟。
神社の祭神を調べることから、木そのものを祀る場所へと、少し視点が広がりました。
いつか現地を訪れ、それぞれの木が立つ場所や、周囲の景色も見てみたいと思います。
参考資料
- 宇城市「郡浦の天神樟」
- 熊本県総合博物館ネットワーク「栗崎の天神樟」
- 熊本県森林組合連合会『森林組合だより』第182号(2018年3月)
- 環境省 巨樹・巨木林データベース「郡浦の天神クス」
- 肥後ジャーナル「宇土の林に立つご神木『栗崎の天神樟』」
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