福岡県豊前市周辺の地域を巡る中で、京都では総本社が一箇所であるにもかかわらず、中津市や宇佐市、豊後高田市といった豊前地域に八坂神社が非常に多いという事実に気がつきました。

祇園信仰の源流と豊前への伝播
全国に約3,000余社ある八坂神社は、疫病除けの神として信仰された牛頭天王を祀り、その総本社は京都の八坂神社(祇園社)です。
しかし、牛頭天王信仰の源流は京都ではなく、兵庫県姫路市にある廣峯(ひろみね)神社に求められるという説が有力です。廣峯神社は「元祇園(もとぎおん)」とも称されます。
廣峯神社から豊前へ
この信仰が豊前の地に深く根付いた具体的な証拠は、上毛町垂水(たるみ)に残されています。
この地にある八坂神社の前身は、かつて「瀧ノ宮牛頭天王(たきのみやごずてんのう)」と呼ばれていました。地域の伝承によると、この社は、以下の経緯で祀られたとされます。
「瀧ノ宮牛頭天王は、元正天皇の御宇、養老年間(717年~724年)にこの地で疫病が流行した際、播磨国飾磨郡(現在の兵庫県姫路市)の廣峯神社より疫病鎮守のため勧請し祭祀したのが始まり」
この伝承は、中津・宇佐地域と姫路の間に、疫病鎮静という切実な願いを介した直接的な信仰の繋がりが古代から存在していたことを示唆しています。
これが、豊前地域で八坂神社(祇園信仰)が多発する大きな背景の一つであると考えられます。
「牛頭天王」と「瀧ノ宮」の繋がり
牛頭天王は元々インドの疫病神でしたが、日本では記紀神話の素戔嗚尊(スサノオノミコト)と習合しました。
特に注目すべきは、神仏分離以前の社名に残されていた「瀧ノ宮」という名称です。
- 牛頭天王と水の神: 牛頭天王が疫病を鎮める力(荒ぶる力)を持つ一方、疫病は水の神(龍神)と関係づけられることも多く、祇園社の裏手が水の神を祀る貴船神社であるように、祇園信仰はしばしば水神・龍神信仰と結びつきます。
- 「瀧」が意味するもの: 「瀧ノ宮」の「瀧」は、水神(龍神)の存在、あるいは祓い清めの場所であったことを強く示唆しています。
この「瀧ノ宮牛頭天王」という名称は、慶応4年(1868年)の神仏分離令により、仏教的要素である「牛頭天王」の名称が廃され、神道的な「八坂神社」へと改名されました。
この改名により、疫病鎮守の神(牛頭天王)と、水の神(龍神)としての「瀧ノ宮」の習合の繋がりが、公的な名称から消えることになりました。しかし、八坂神社の多さは、この地域が古くから疫病や水害といった災厄を恐れ、その鎮静に廣峯系牛頭天王の力を強く頼っていた歴史を今に伝えています。
京都の八坂神社と姫路「廣峯神社」の繋がり
八坂神社に祀られている牛頭天王は、元々、兵庫県姫路市にある廣峯(ひろみね)神社から遷(うつ)されたと伝えられています。
廣峯神社は、弥生時代、崇神天皇の治世(今からおよそ二千年以上前)に、主祭神である素戔嗚尊(スサノオノミコト)と五十猛命(イソタケルノミコト)を白幣山(はくへいざん)に祀ったのが始まりとされています。
現在の廣峯神社の奥から白幣山の頂上に行けるようで、そこには素戔嗚尊を祀る荒神社があったとも言われています。
同じく素戔嗚尊を祀る神社ではありますが、廣峯神社は京都の八坂神社の本家「元祇園(もとぎおん)」とされており、牛頭天王信仰の源流の一つなのです。
豊の国エリアでも「牛頭天王」が祀られていた

では、なぜ中津市や宇佐市、豊後高田市といった豊の国の地で、これほどまでに牛頭天王信仰、そして八坂神社が深く根付いたのでしょうか。
注目したいのは、上毛町垂水(たるみ)にある八坂神社の前身です。
この八坂神社は、かつて「瀧ノ宮牛頭天王(たきのみやごずてんのう)」と呼ばれていました。
ある記事によると、「瀧ノ宮牛頭天王は、元正天皇の御宇、養老年間(717年~724年)にこの地で疫病が流行した際、播磨国飾磨郡(現在の兵庫県姫路市)の廣峯神社より疫病鎮守のため勧請し祭祀したのが始まり」と伝えられています。
つまり、播磨の廣峯神社から直接、牛頭天王がこの豊前の地へ招かれ、祀られていたということになります。
「瀧ノ宮」と「牛頭天王」の繋がりが消された?
しかし、この「瀧ノ宮牛頭天王」という名称は、明治時代になる直前の慶応4年(1868年)3月に発令された『神祇官の再興及び太政官布告による神仏判然令』、いわゆる神仏分離令によって「八坂神社」へと変更されたそうです。
この改名には、単なる神仏分離だけでなく、「瀧ノ宮」と「牛頭天王」の繋がりを消したかったという意図があったのではないか、という疑問を実は持っています。
「滝」という名前が消された寺社があると、四国・徳島県でスサノオと滝宮の関連について発信している方もいらっしゃいました。
全国的にも調べてみたい点です。
八坂神社の数の多さの謎を調べているうちに、また新たな謎が増えてしまいました。
この「滝」が持つ意味、そしてそれが「牛頭天王」とどのように結びつき、そしてなぜ消されたのか。
まだまだ分からないことだらけです。
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