高速道路を走っていたとき、カーナビに表示された神社の名前が目に留まりました。
山口県防府市にある「玉祖神社」。
玉祖、と書いて「たまのおや」と読みます。
玉を作る人々の祖先に関係する名前なのだろうか。
調べてみると、古代には勾玉や管玉などを作る「玉造部(たまつくりべ)」と呼ばれる人々がいました。
そして、玉祖神社には、奈良時代に玉作部の人物が神職を務めていたことを示す記録も残っています。
さらに調べていくと、玉作りは、以前取り上げた忌部氏とも関係していました。
今回は、山口県の玉祖神社を入口に、古代の玉作りを担った人々と、忌部氏との関係を見ていきます。
玉祖命とはどんな神様?
玉祖神社の御祭神は、玉祖命(たまのおやのみこと)です。
玉祖命は、天孫降臨の際に邇邇芸命に従った五伴緒(いつとものお)の一柱として、『古事記』や『日本書紀』に登場します。
また、天照大御神が天岩屋戸に隠れた際には、祭具の一つである八尺の勾玉を作った神としても伝えられています。
玉祖命は、玉を作る人々の祖神とされる神です。
國學院大學の解説では、玉祖命は玉祖連などの祖とされ、玉類の生産を担った玉作部を統括し、朝廷に仕えた氏族との関係が説明されています。
「玉祖」という名前は、単に玉を作る技術を持った神というだけでなく、玉作りに携わった人々の祖先を表す名前としても理解されてきました。
玉造部とは?
古代には、勾玉や管玉、平玉などの玉類を作る人々がいました。
彼らは玉造部、あるいは玉作部と呼ばれます。
「部」は、古代の朝廷や豪族に仕え、特定の職掌を担った集団を指す言葉です。
玉造部は、玉を作る技術を持ち、その製作に従事した人々でした。
玉は、単なる装飾品ではありません。
古代の祭祀では、玉は神に捧げるものでもあり、権威や神聖さを象徴する品でもありました。
そのため、玉を作る技術は、朝廷の祭祀とも深く関わっていたと考えられています。
玉造部は、各地に存在していました。
『日本大百科全書』によれば、河内、大和、武蔵、下総、常陸、摂津、近江、周防、讃岐、出雲などに玉作りに関わる地名や集団が見られます。
玉作りは、特定の一地域だけで行われていたものではなかったのです。
山口県・玉祖神社に残る玉作部の記録
今回気になった玉祖神社は、山口県防府市に鎮座しています。
周防国の一宮であり、『延喜式神名帳』にも記載された古社です。
創建年は明らかではありませんが、神社の由緒では、景行天皇が熊襲征伐の際に戦勝を祈願したと伝えられています。
玉造部と忌部氏は関係していたのか
ここで、もう一つ気になるのが忌部氏との関係です。
以前の記事で取り上げた忌部氏は、古代の朝廷で祭祀に携わった氏族でした。
『古語拾遺』には、忌部氏の祖神である天太玉命が、各地の忌部の祖神を率いていたという記述があります。
その中に登場するのが、出雲の玉作りの祖とされる櫛明玉命(くしあかるたまのみこと)です。
『古語拾遺』では、櫛明玉命は出雲国の玉作りの祖であり、その子孫が出雲に住み、毎年玉を貢進したと記されています。
つまり、出雲の玉作りは、忌部氏の祭祀に関わる集団の一つとして語られているのです。
ただし、ここで注意したいことがあります。
玉造部と忌部氏は、同じものではありません。
玉造部は玉を作る職能集団です。一方、忌部氏は朝廷の祭祀を担った氏族です。
『古語拾遺』では、出雲の玉作りの祖神が忌部の祖神に率いられた存在として描かれていますが、全国の玉造部がすべて忌部氏に属していたということではありません。
祭祀に必要な玉を作り、朝廷に納める。
その仕事を通じて、玉作りの人々と忌部氏は関係していたと考えられます。
出雲にも残る玉作りの痕跡
玉作りと忌部氏の関係を考えるうえで、出雲は重要な地域です。
島根県松江市には、出雲玉作跡と呼ばれる遺跡があります。
ここでは、玉を作るための工房跡や、製作に使われた道具などが確認されています。
『出雲国風土記』や『延喜式』にも、出雲の玉作りに関する記述が残されています。
出雲国造が、就任のたびに天皇への祝詞とともに玉を献上する慣わしがあったことも、出雲の玉作りが朝廷の祭祀と結びついていたことを示す手がかりです。
玉を作る人々と、神様を祀る人々
今回、玉祖神社という名前から調べてみると、玉祖命、玉造部、忌部氏、そして出雲の玉作りへと話が広がっていきました。
玉祖神社には、玉作部を名乗る人物が神職を務めていた記録があります。
出雲には、玉作りの工房跡が残されています。
そして『古語拾遺』には、忌部氏の祖神と、出雲の玉作りの祖神との関係が記されています。
古代の祭祀は、神様に祈ることだけで成り立っていたわけではありません。
神に捧げる玉や布、祭具などを作り、整え、運ぶ人々がいました。
玉祖神社という名前は、そうした人々の存在を思い起こさせます。
高速道路を走っているときに目に留まった、ひとつの神社の名前。
そこから、古代の玉作りを担った人々の姿が少し見えてきました。
参考
- 國學院大學 古典文化学事業「玉祖命」 — 玉祖命の神話、玉祖連と玉作部の関係。
- 國學院大學 古典文化学事業「忌部首」 — 忌部氏と地方の忌部、出雲玉作との関係。
- 山口県「玉祖神社」文化財解説 — 玉祖神社の祭神と『周防国正税帳』の玉作部五百背。
- 山口県公式観光サイト「玉祖神社」 — 周防国一宮としての由緒と祭神。
- コトバンク「玉造部」 — 玉造部の職掌と各地の分布。
- 奈良文化財研究所・全国遺跡報告総覧「史跡出雲玉作跡発掘調査概報」 — 出雲の玉作りに関する文献と遺跡。
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